宇宙の窓
夢洲の海の多様性
すぐそこの海に広がる微小生物の世界
万博会場に面した海から汲んできた海水。よく見ると小さな粒が蠢(うごめ)いている。
顕微鏡でのぞくと、肉眼では想像もつかない多様なプランクトン(浮遊生物)たちが泳ぐ姿が見えてくる。
展示内容
夢洲の海で見つけた個性豊かなプランクトンたち。ここでは動きのユニークな動物プランクトンを紹介します。会場ではこれらに加え、様々な形や色が美しい珪藻類(海における代表的な植物プランクトン)も大画面に映し出されます。
ウスカワミジンコ
ウスカワミジンコはシダミジンコ科に属し、この科は淡水性と海洋性の両方を含む唯一の科です。その名の通り、殻が全てのミジンコの中でも飛びぬけて薄く、水中では透き通って見えます。
コウミオオメミジンコ
名前の通り、ミジンコ類の中でもとりわけ大きな目が特徴で、頭部のほとんどを占めます。複眼を形成する個眼も一つ一つがよく見えます。
ドロワムシの1種
ミジンコ類とワムシ類は淡水性が大半で海洋性種は少ないです。ドロワムシは殻を持たない柔らかいワムシで、頭部の左右にある器官は「耳」と呼ばれますが聴覚器官ではありません。
シオミズツボワムシ
海洋性ワムシ類の代表種で、養殖魚の餌としても広く利用されます。見た目のみでは判別できない種(隠蔽種)が複数含まれます。ツボワムシの仲間は淡水に多くいます。
カイアシ類 アカルチア科の1種
カイアシ類は地球上で最も沢山いる多細胞生物の一つとまで考えられており、1万種以上が報告されています。名前の「カイ」は船のオール(櫂)であり、オールのような形と動きの脚を持ちます。
カニのゾエア幼生
海岸や砂浜に見られる代表生物のカニも、幼生のうちはプランクトン生活を送ります。エビに近い見た目のゾエア幼生の後にはメガロパ幼生になり、幅の広い甲羅や横に広がる脚が発達してよりカニに近い形になります。
フジツボのノープリウス幼生
水生生物には、成体では固着生活や遊泳生活を行うものでも、幼生時期はプランクトン生活を取るものが多くいます。フジツボ、貝類、カニ、ゴカイはその代表例です。
巻貝のベリジャー幼生
貝類はトロコフォア幼生からベリジャー幼生になると、殻を持つようになります。二枚貝か巻貝かもこの段階でわかります。映像でうごめいているものは成体になると失う繊毛で、これを使って遊泳します。
ゴカイの幼生
ゴカイの仲間は、孵化したばかりの時はトロコフォア幼生という球形で浮遊生活を送ります。この個体は、そこから後部がどんどん伸びて節が形成され、ネクトキータ幼生に至る途中の段階にあります。
サシバゴカイ科のネクトキータ幼生
ゴカイはミミズと同じ環形動物門に属し、成体は細長い姿をしています。しかし、幼生時期はプランクトンとして過ごします。夢洲にも多様なゴカイがいて、種類によって幼生の形も異なります。
ヒラムシ類のミュラー幼生
ヒラムシ類はウズムシ類の1つです。名前の由来である渦巻くように動く繊毛は幼生の頃から見られ、この動画でもその動きが見えます。
クラゲ オベリア属の1種
クラゲの仲間であるオベリア属は傘が平たく、その動きが顕微鏡下で綺麗に見えます。クラゲの仲間は終生プランクトン生活を送るものも多く、エチゼンクラゲなどは最大クラスのプランクトンと言えます。
オタマボヤ科の1種
オタマボヤは尾索動物です。これは、尾に背骨の前身である脊索を持つという意味で、無脊椎動物の中では最も脊椎動物に近い生物です。中で歯車のように回っている構造は鰓(えら)です。
繊毛虫の1種
繊毛虫類は、海洋の微小動物プランクトンの主要構成生物です。身体の端に加え、よく見ると縦方向にも長い繊毛が動いているのが見えます。
バックストーリー
夢洲の自然環境

万博会場となっている夢洲はもともと廃棄物の最終処分場として活用された人工島ですが、造成から30年以上を経た今、微小生物だけでなく、さまざまな鳥や昆虫などが生息する豊かな自然環境を持っています。特に鳥類は豊富で、ガンカモは13種、シギ・チドリは春には30種、秋には37種の飛来が確認されています。また、島内の湿地では大阪府レッドリストで「絶滅」と判定されたカワツルモが再発見されるなど、貴重な生物も生息しています。大阪府レッドリスト2014では、夢洲を生物多様性ホットスポットのAランクと認定し、生物多様性の保全上特に重要な場所として位置づけています。
ミクロな生物の多様性
顕微鏡がないと詳しく観察できないこれらの微小な生物たちは、実は地球の生命圏をささえる重要な役割を持っています。たとえば、水中の植物プランクトンが生産する酸素は地球上の酸素の約半分を占めるともいわれています。また、更に小さなバクテリアや菌類は水中の有機物を分解することで、物質循環を支える鍵となる存在でもあります。
植物プランクトンから動物プランクトン、さらに大きな魚や動物へと連なる食物綱は、私たち人間を含む陸上の生態系にも影響を与える大きな広がりを持っています。もしも植物プランクトンが活動をやめれば、地球の生命活動そのものが成り立たないでしょう。もし動物プランクトンがいなくなれば、魚や大型水生生物は植物プランクトンとの繋がりを断たれ栄養源を失い、私たち人間は水産資源を利用できなくなります。このミクロな生物たちの多様性が、私たちを含む地球全体のマクロな生命圏を支えているのです。